一年前に、誰が今の世界を想像しただろうか?地球規模で広がった新型コロナウイルスは、瞬く間に私たちの生活を一変させた。ランニングを取り巻く環境も、もちろん例外ではない。ここアメリカでも、20203月に開催されたロサンゼルス・マラソンを最後に、ニューヨークシティー・マラソンや、ボストン・マラソンといった伝統ある大会を始め、全ての大規模な大会がキャンセルとなった。スタートラインに立つために、何カ月、あるいは、それ以上に渡って練習を積み重ねてきたランナー達。落胆のほどは容易に想像ができる。ランナーにとって、走る目標やモチベーションの維持は、生活の様々な局面に、大きな影響を与えるほど重要な意味を持つ。パンデミック収束の兆しは全く見えていない。数万人のランナーが公道を埋め尽くす景色を目にするのは、果たしていつになるのだろうか?


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ロードレースと比べると、参加者は桁違いに少ないトレイルラン・レース。アメリカでは、環境保護の目的から、多くは300名~400名程度。あるいは、それ以下という規模である。それにも拘らず、感染拡大防止や、医療機関への負担を考慮し、3月以降のレースは、軒並みキャンセルとなった。

4th of July、独立記念日が過ぎ、アメリカも本格的な夏を迎えた。当初の期待に反し、燦々と降り注ぐ太陽も、30度を超える気温も、新型コロナ感染拡大をスローダウンさせるには至っていない。その傍ら、トレイルランならではの、新たな大会開催への試みが少しづつ始まっている。

カリフォルニア州、ロサンゼルスの中心部から100マイルほど東に行った、サンバーナーディーノ・フォーレストに、ビッグベーア―レイクと言う湖が静か佇んでいる。周囲には、碧い湖を囲むように3,000m級の峰々が連なり、冬にはスキー客で賑わう。この湖を眼下に見下ろす峰々を走るトレイル・レースがある。短いものでは10㎞から始まり、21㎞、50㎞、50マイル、そして100マイルと様々な距離が用意されている。私もエントリーしていた、今年で8回目となるKodiak Ultraと呼ばれるこの大会。スタート地点の標高は2,072m 、最高地点は3,036mに達する山岳レース。過去に何度かタラウマラ族のランナーも参加している。

大会は8月中旬に開催される予定だったが、ご多分に漏れず、新型コロナの影響で見合わせとなった。ところが、つい先日、新たなルールのもと9月中旬に開催予定とのメールが届いた。その新に採用されるルールというのが、かなり斬新だ。当初、複数の距離のレースが土・日曜の週末2日間で行われる予定だった。それを火曜日から日曜日までの5日間に延長。その上で、少人数に絞ったエリートランナーのみが参加するレースを土曜日と決めた。次いで、その他大勢のランナーは、残り4日間の内、好きな日で出走日を登録し、好きな時間に来て、勝手に走れと言うものだ。100マイルレースでは、苦肉の策で、砂漠を寝泊まりしながら、何日もかけて横断する、ステージレースさながらの仕組みも導入される。要するに、一気に走り切らず、自らの判断で、何日かに分けて走っても良いという。つまるところ、何でもありだ。

100マイルレースは、湖の周りを一周するコースのため、スタートとゴールは同じ地点。50㎞、50マイルについては、ルート上の異なった地点からスタートし、100マイルコースと同じゴールを目指す。当初のプランでは、それぞれのスタート地点までのシャトルバスが用意される筈だった。然し、新たなルール下では、密集を避けるため、決められたスタート時間はない。よってシャトルバスもない。スタート地点までの移動手段は、自ら確保しなければならない。

ルートのマーキングは有るというが、エイドステーションは水だけで。その水でさえ、必ずあるというギャランティーは出来ないそうだ。栄養補給食はどうだろう?ビッグベアーと言うだけあって、熊が多く生息する地域。無人のエイドステーションに、食料を放置しておける筈もない。当然、献身的なボランティアの姿もない。昨年のウルトラの参加者は、100マイルが156名、50マイルが133名、50㎞が164名。全て合わせても453名。本年度のレースでは、パンデミックの影響で参加者は減るだろう。エリートランナーは決められた日に走る。残ったランナー達が4日間に渡って、それぞれの距離を、好き勝手な時間に走る。ルート上で他のランナーに遭う機会は極めて稀だろう。途中リタイヤの場合でも、ゴール地点までの送迎はない。自らのサポートクルーが、唯一の頼みの綱であるが、携帯電話の電波がある保証は無い。

ホームページ上では、「冒険好きのランナー向け」と但し書きがある。大会主催者側から提供される安全対策は、ほぼ皆無。すべては自己責任。まさに冒険感あふれる、アメリカらしいワイルドなレースである。孤独なシングルトラックでは、シカやクマなどの動物に遭遇するかもしれない。サポートの行き届いていないレースでは、ランナーが大きなリスクを抱える事になる。否が応でも思い出すのは、トレイルランニングが元来、危険が伴うスポーツであるという事実。リスクと言う対価を支払う事によって始めて、とびきりの絶景や、てんこ盛りの達成感を味わう権利を得ることが出来る。

カリフォルニア州を含む、全米多くの州で、感染者数が増え続け、収束の兆しは見えていない。当然、Kodiak Ultraが無事に9月に開催されるかどうかは定かではない。各地でレース中止が相次ぐ中、パンデミック下での感染拡大を避けながら、如何に開催するかを模索して、行き着いた新たなレースの形。無責任と思えるほどの斬新さで、賛否両論あることは疑いの余地もない。然し、多くのランナー達が先が見えない不安と闘う中、トレイルランを純粋に楽しめるフィールドを用意したい、という主催者側の熱い思いは、痛いほど伝わってくる。新型コロナによるパンデミックで世界が様変わりしてしまった今、理想のレースの在り方を、様々な試みを通して模索し続けていくことだろう。この、カリフォルニアの山中での試みが、新たな明るい未来への道しるべとなると良いのだが。 その2.に続く

by Nick D