アスリートの中にはレースが好きで、次から次へと多くのレースに参加する人も多い。一方、私はと言うと、年中行事の様になっているロサンゼルス・マラソンなど、幾つかのレースは除いて、チャレンジングなレースは一年に一度と決めている。「チャレンジング」の定義は、過去に経験したことのない距離やレース環境で、申し込み時点で完走が定かでないもの。あるいは、BQと呼ばれる、ボストン・マラソンの参加権を得るための、所謂、選考レースなど。今回の100マイルレースはまさに、この「チャレンジング」なレースに当たる。

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心が騒ぐレースがあれば、とりあえず申し込みをしてしまう。中には、何年か前に挑戦したアイアンマン・トライアスロンの様に、前年の大会でボランティアをしてから、翌年の参加権をゲットするような、
2年掛りのものもある。一度、目標を設定したら、次は課題を明確にして用意周到に準備をする。自分にとっては未知の領域であり、少なからず不安もあるが、完走への障害をトレーニングを通して克服し、確実性を高めていく過程は、それ自体がとても、エキサイティングである。

Rio Del Lago 100のレース・レポートの第一話はこちらから:

100マイルレースを楽しもう「その1 山の精霊の巻」


前段はさておき、初の
100マイルレースとなった、RDL100。完走タイムを制限時間の30時間から、少し余裕をもって29時間に設定。途中、道に迷いロスタイム。そしてマウンテン・ライオンとの遭遇と、ハプニングに見舞われたものの、28時間40分で無事完走。途中、右膝の痛みに苦しんだが、それ以外は睡魔に悩まされる事もなく、
脚が攣る事もなく、腰痛で苦しむ事もなく、足の爪が剥がれる事もなく。更には栄養補給もほぼ完璧と、申し分のない結果。ということで、レースが終わった今、課題ごとの振り返りをしてみたい。少しでも、これから100マイルを目指すアスリートの方々の役に立つと良いのですが。


6ヶ月前の課題の挙げ出しはこちら: http://nick-d.blog.jp/archives/17145642.html

 

課題1. 適度な走りこみ

 

レース1.5か月前の書き込み:

何をもって「適度」というか甚だ疑問ではありますが、過去のトライアスロンやウルトラマラソンのトレーニングの経験を基に、体に過度の負担を掛けずに走り込める距離として設定したのが、ピーク時の月間走行距離で350km400km。これまで、4293km5290km6290km7282km8357km。そして、先週末までの直近の3週間は毎週100㎞をキープし、月間距離400㎞超のペースで9月中旬を迎えました。ほぼ予定通りの走り込み具合。ここから11月のレースまでの6週間は、テーパーリングと呼ばれる期間。蓄積した疲労を軽減するべく徐々に距離を減らしていきます。毎週、10%程度づつ削っていく感じでしょうか。これまでのトレーニングでの最長距離は6月のグランドキャニオン南北リム往復の72㎞。次いで、7月のオフィスからの夜間帰宅走61㎞。最後にもう一度くらい長めの距離を走っておきたいところ。ということで昨日、金曜日の夜から土曜日の朝にかけて50㎞を実施。いい感じの仕上がり具合です。ここまで来たらあとは、無理をせずに怪我なしでレース当日を迎えるのみ。

今回のチャレンジの唯一の目標は、制限時間内での完走。途中トラブルなく無事完走できたので、目標達成のための走り込み量は充分だったという事になります。その一方、テーパーリング期間を6週間取ったのが、少し長かったかなぁという気がしています。レース2か月前、9月の南カリフォルニアは、未だ気温がかなり高く、夕刻のランでも連日30度をかるく超えていました。当然、疲労が溜まっており、そのまま続けていたら、レース前に故障する可能性もあったので、1カ月を予定していたテーパーリング期間を6週間に伸ばした経緯にあります。そろそろ疲労がピークかな、と思った直接的な兆候は、過去に経験したことのない口内炎。免疫疲労によると思われる、舌と歯茎の炎症が2度に渡って発生し、それぞ10日間ほど続きました。結果的には、無事完走できたので、必要十分な走り込みをして、テーパーリングも上手く行ったという事になるのでしょう。おそらく、テーパーリング開始の時期は、トレーニング期間中の環境や体調、さらには回復スピードの個人差を見ながらケースバイケースでの判断が必要かと。今回のレースで、敢えて誤算を挙げるとすると、60マイルあたりから痛み出した右膝。せめて、もう1020マイル持ってくれれば・・・という気がします。これを教訓としての今後の課題は、下り坂トレーニングを多めに取り入れて、更なる膝の強化という事になります。今回の準備で、走り込みと合わせて意識的に普段より多めに行ったのは、スクワット。特に片足スクワット。これは、よっぽど無理しない限りやり過ぎという事は無いので、両足・片足双方のスクアットを継続的に行い、総合的な脚力の強化を図るのも有効と思われます。

 

課題2. 体幹トレーニング

レース1.5か月前の書き込み:

カイロプラクティスの先生にビーフジャーキー呼ばわりされた腰は、未だに本調子とは言えませんが、腹筋、側筋、バランボールでのトレーニングで違和感はだいぶ収まってきました。さらに最近使い始めて非常に効果的なのがボールによるマッサージ。痛みを我慢してマッサージを続けること約一か月。ずいぶん楽になってきて、走っている最中は痛みをほとんど感じなくなりました。まだ一か月超あるので、さらなる効果を期待しています。もう一つ、ごく最近購入したのが懸垂用の器具。これで、(当然懸垂もしますが)ぶら下がって背骨を伸ばす様にしています。これがまた気持ちい。ということで、ビーフジャーキー対策も何とか進んでいます。

背筋、側近、ボールによるマッサージ、ぶら下がりによる背骨伸ばし。これらを継続的にすることにより、カイロの先生にビーフジャーキーと呼ばれた背中から腰に掛けての筋肉ですが、レース中には全く気になりませんでした。通常は長距離を走ると、多少なりとも痛みや違和感があるのですが、今回の100マイルでは全く違和感なく走り通す事が出来ました。レース中は胃の不快感や膝の痛みが強かったせいか、腰がヤバかった事などすっかり忘れていたほど。と言うことで、体幹対策は自分的には100点満点。特にイボイボ・ボールによるマッサージは、かなりの効果があったと考えています。背中や腰の筋肉疲労に悩まされている方にはお勧めです。

 

課題3. 夜の眠気対策

レース1.5か月前の書き込み:

レース前3か月の記事でお伝えした、オフィスからの8時間帰宅ラン。何故か多くの同僚の知るところとなり、皆から変人呼ばわりされる羽目になってしまいました。周りの目はさておき、深夜の8時間走で自宅に帰り着いたのが午前2時半。眠気対策には一定程度の効果はあったので、もう一度くらいは試してもいいかなぁという感じ。されど、夜中のサンフェルナンド・バレー(帰宅ルート上の地域の名前)の一部はホームレスやギャングがいて治安の悪い所もあるし・・・ということで、今回はルートを変えることにしました。実施は昨日、金曜の夜。仕事を終えて一旦帰宅。夕食をとって少しっゆっくりして、午後11時にスタート。近所の慣れ親しんだルート50㎞を6時間かけてのんびり走って早朝5時に家に到着。通算で24時間以上起きていたことになりますが、特に眠くなることもなく無事に走り切ることができました。二度の真夜中ランのお陰で、夜通し走れる目処がつき、かなり楽な気分でレース当日を迎えられそうです。

眠るのが好きで、普段から睡眠時間はかなり多めにとっているので、24時間以上の長丁場を眠らずに走りきる事ができるか、大分心配をしていました。レース前の眠気対策ラン2本。これが功を奏してかどうかは分かりませんが、レース中は驚くほど眠気は感じず、始終覚醒していた感じです。レース中の対策としては、深夜まではカフェイン接種を一切せず、本当に必要な時のカフェイン効果を最大限にするよう心掛けました。実際のところ、12時を回ってからカフェイン入りのジェルを4つ摂取するだけで、全く問題なく朝を迎える事が出来ました。カフェインの覚醒効果をさらに効果的にするには、レース当日のみならず、数日前からコーヒーなどのカフェイン接種を抑えると良いと聞いたこともあります。因みに、今回のレース終了後は、ホテルに戻り先ずはシャワー。そして、妻とアウトレットモールへ買い物へ。その後、夕食をとり就寝。結果的に40時間以上、眠らずに起きていました。

 

課題4. メンタルの強化

レース1.5か月前の書き込み:

雨にも負けず、灼熱の太陽にも負けず、吹きつける極寒の風にも負けず、疲労や眠気にも負けず、真っ暗闇の山中での孤独にも負けず・・・と、幾度となく繰り返していますが、ウルトラマラソンをにはメンタル・タフネスが必要不可欠。グランドキャニオン単独ランをした後も、近所の真っ暗闇の山中を走ったり、40度の灼熱の太陽の下を走ったりと、敢えて過酷な環境に身を置いてのトレーニングをしてきました。唯一できていないのが雨風・寒さ対策。なんといっても、南カリフォルニアはいつも青空で、生贄を添えて雨乞をしたものの全く効果なし。今回のレースの舞台となるのは北カリフォルニア。11月の気候は何でもありで、30度を超える日もあれば、はたまた冷たい雨が一日中降り続けることも。雨はアリゾナの100㎞レースで懲り懲り。

 

冷たい雨が降り続いたアリゾナ100㎞レースの様子はこちらにて:

http://nick-d.blog.jp/archives/12017495.html

 

これまで、できる限りの準備はしてきたので、ここまで来たら、あとは運を天に任せて自分のメンタリティーがどれだけ強いか、出たとこ勝負で試すのみ。レース中に極度の疲労と睡眠不足により幻覚を見たり、幻聴を聞いたりするランナーもいるとか。自分が極限の状態でどうなるか結構楽しみというのが正直なところ。まぁ、何なんとかなるでしょう。

 

雨にも負けず、風にも負けずを覚悟してメンタル強化に励みましたが、レース当日は快晴。更に最高気温22度、最低気温8度と絶好のウルトラ日和となりました。お陰で天候によるメンタルへの影響はゼロ。夜の孤独も、事前にグランドキャニオンで、命の危険もある本当の意味での孤独を味わったり、一見意味のなさそうな、オフィスからの夜通し帰宅ランの甲斐あってか、途中コースを大幅に外れるハプニングもありながら、何とか凌ぐ事が出来ました。懸念していた背中の痛みや、極度の疲労、養分補給不足によるハンガーノックなど、メンタルにマイナスに働く要因も全くと言っていい程なし。当然、多少のムードスイングはあったものの、極端なローの状態に陥る事なくゴールに辿り着く事が出来ました。トレーニング期間に多少無理をして、メンタル的に追い込む機会を作ったことによって、自信をもってレースに望めたのが大きかったような気がします。

課題5. 栄養補給

レース1.5か月前の書き込み:

何度か触れていますが、トライアスロンでもウルトラマラソンでも長時間のレースになると、栄養補給が極めて重要となります。レース中に必要なカロリーを摂取しないと、ガス欠となり動けなくなってしまいます。ハンガーノックと呼ばれる現象。走り続けるためには多くのカロリーが必要となりますが、かまわず高カロリーのものを食べれば良いというものでもありません。長時間のレースでは内臓にも大きな負担がかかり、疲労した胃袋に無理やり食物を入れると、体が拒絶反応を起こして吐いてしまったり、たちまち下痢をすることも珍しくありません。どちらの場合も必要な栄養を摂取することができずに途中リタイヤは必至。普段食べ慣れたものでも、レース中の疲れた体が受け入れるとは限らないので、トレーニング中にひたすら色々な物を試すことが肝心。私の場合は過去の経験から15~16時間程度まではTailwind Nutrition(粉末ドリンク)で最低限の栄養補給なんとなりそうな目処がついています。当然、最低限の準備だけではなく、プラスアルファーのカロリー補給の準備も抜かりなくする必要があるため、これまでも様々なものを試してきました。昨晩の夜通しランでも、遠足のお菓子さながらのポテトチップやオレオクッキーを持参し、立ち食いならぬ走り食い。かなり高カロリーのジャンクフードにも慣れてきたので、あとは当日のコンディション次第。さて肝心のレース日のプランはというと、ざっとこんな感じ。

水分補給:1.5Lハイドレーションパックにて。給水所では次のエイドステーションまでの距離を見て必要な水の量を判断。摂取量は当日の天候に拠るところがおおきいですが、日中は最低でも一時間300mlはコンスタントに摂りたいところ。

栄養補給:メインのカロリー補給はTailwind粉末ドリンク。一袋で200kカロリー 。これを1時間に一袋の割合で飲んで最低カロリーを確保。方法はというと、給水所ストップ毎に次の給水所までの所要時間を計算して、ベストの胸ポケットに収容できる600mlの小さなめのボトルに必要な量のTailwindを入れる。次の給水所まで3時間を見込んでいれば、ボトルに3袋を入れて水で薄める。区間ごとにこれを飲み切って最低カロリー消費をコントロール。合わせて愛用のストリンガーワッフルとジェルで追加エネルギーを補給。ワッフルが約150kカロリー、ジェルが100kカロリー。これらを組み合わせて事前準備した栄養補給源から毎時300kカロリーを摂取というプラン。300kカロリーを30時間ということで、ここまでで合計9,000kカロリー。

と、口で言うのは簡単ですが、実際には走りながら時計を見て、「あっ、メシの時間だ」と決まった時間に栄養補給をするのは至難の業。口の中はパサパサで食べ物は喉を通らないし、同じものばかり食べるのも楽ではない。さらに時間を追うごとに消化機能も落ちてくる。今までのレースではプラン通りに事が運んだのは皆無。更に実際には毎時500kカロリーくらいの栄養補給をするのが理想。ここで必要となってくるのが、ジャンクフード。途中の給水所は、コーラなどの炭酸飲料を始め、ポテトチップ、クッキー、ピーナッツバター・サンドイッチ、チョコレート、ガミーベアーなど高カロリーのジャンクフード天国。これらでカロリーを補うのが極めて重要。今回のレースではジャンクフードが完走のカギを握っていると言っても過言ではない気がします。これがこれまで繰り返してきたジャンクフード・トレーニングの背景。結果は如何に?と言う事で、粉末ドリンクやジャンクフード全てひっくるめて、30時間の合計カロリーはと言うと、何と15,000kカロリー!6週間後のレースが楽しみになってきました

 

結果から言うと、途中ある程度の胃腸の不調はあったもの、吐いたり、下痢をすることなく、コンスタントに必要なカロリー摂取できたので、プランは成功と言って良いと思います。前日のすし屋でゲットしたショウガが効いたのは、思わぬ幸運と言って良いでしょう。更には、考えていたよりかなり少ないカロリー補給で、昼夜走り続けられる事がわかったのが今回の大きな収穫。準備した合計カロリー約9,000kのうち、摂取したのが約5,700k。完走タイムの29時間で割ると、一時間当たり約190kカロリー。エイドステーションで、は主にポテトとジンジャーエール。そして僅かながらピーナッツバターサンドイッチと夜には野菜だしスープ。これらを加えても、おそらく毎時250k程度、多くて300kのカロリー。予定していた300k/時+エイドステーション食=500k/時よりもだいぶ少ない摂取量。更に、発汗が少なくなる夜間は、昼間より幾分少ないカロリー補給で走り続けられる事も体験を以って学びました。今後のレースで役に立ちそうです。

目的を達成するために乗り越えなければならない障害は、皆それぞれ。カイロの先生にビーフジャーキー呼ばわりされる腰を持ったランナーがそれほど多くいるとは思えません。まずは、現状をじっくり見て自分の課題が何であるかの洗い出し。その後の対策は、試行錯誤の繰り返しだろうと思います。私の今回の6ヶ月間の記録が、少しでも多くのアスリートの役に立つと良いのですが。

By Nick D.