スタート地点では寒さと共にかなり気になったの雨も、今では霧雨程度でまったく気にならない。レインジャケットを脱ぎ、少し肌寒いが体温上昇は抑えられ快適だ。緩い坂を上りきると、漸く11マイル(18km)地点のサインが見えてきた。ここまでマイル7分45秒のペースと、ほぼ予定通りのレース展開。
image
(2回目の参加となったセントジョージマラソン。7000名程度参加する、全米で16番目の規模。1977年に始まった40年以上の歴史のある大会)


にほんブログ村 その他スポーツブログ マラソン(サブ3.5)へ
にほんブログ村

13マイル(21km)地点から先は急勾配の下り。ここ数ヶ月は、このレースのために下り坂での練習を重ね、ハイスピードでの衝撃に耐えられる膝作りを心掛けてきた。体調万全で、今度こそはボストン行きのチケットを確実のものとするべく今回のレースに臨んでいる。あと2マイル程このペースを維持し、後半は一気にスピードを上げる。毎回、前半はペースを押さえて、後半にスパートをかけるレース展開で記録を縮めてきた。

 image

(スタート地点の焚き火。雨の中でも火は燃え続けている、気温は5度前後とかなり寒い)

その思いとは裏腹に、未だ中間地点にも到達していないというのに、いつになく足が重い。一方、高地にも拘らず息はそれほど上っていない。勝負はここからだ。
 

スタート地点で後ろに控えていた3時間25分のペーサーは、未だかなり後方のはずだ。12マイルの表示が見えてくる。そろそろ、ペースを上げようと試みるが、やはり足がついてこない。既に30kmの壁のような疲労感だ。そこをまさかと思う猛スピードで3時間25分のプラカードを持ったペーサーが抜いていく。とても付いて行けるスピードではない。未だハーフにも達していない。もうこれまでかと絶望感に包まれる。
 

思い返せば、ボストンへの挑戦もこれが3度目。2019年4月に開催される大会へは、昨年ベンチューラ・マラソンで出した初のBQである3時間28分20秒にて、9月中旬に申し込んだ。無常にもエントリー不可の連絡を受けたのは、ほんの数週間前。そこに追い討ちをかけるように、2020年以降の50〜54歳枠でのBQは5分短縮され、3時間25分となった。

 image
 (2020年以降のレースに採用される事となった新BQスタンダードタイム)
 

今回、2年ぶり2度目の挑戦となるセント・ジョージ・マラソンでは、自己記録更新ではなく、あくまでもボストン狙いで望んでいる。3時間25分を切らなければ、敢えて6時間かけて、600km遠征してユタ州まで来た意味もない。
 

ペーサーに一気に追い抜かれ、意気消沈。どうせBQ達成できないなら、無理する必要もないと、弱い心が囁きかける。諦めるのは未だ早い、その前に手持ちの札は全て使い切ろうと、カフェインの効いたジェルの封を切る。口の中が渇いており濃度の濃いジェルを飲み込むのは楽ではない。喉を詰まらせないようにあがいていると、先ほど猛スピードで抜き去って行ったペーサーが、沿道のトイレに駆け込むのが見える。思ってもいない意外な展開。ペーサーは用を足すために3:25のグループを後に残し、ダッシュしてきたのに違いない。

希望と言うのはパワフルなもの。カフェインの影響もあり、意外なほど急に気力が回復。ここからは下りのみ。予定のレース展開に戻すべく、マイル
715秒のペースへのスピードアップを試みる。

 
image

暫くは、ペースを維持するが、やはり長くは続かない。横には、ランナーズハイの影響で、はしゃぐ30代くらいの男性ランナー。「最高の景色、最高の気分だよなー」と誰にとも無く大声で語りかける。思いがけない逆境に苦しむ状況下で、一緒に喜ぶ余裕も無く、正直かなりうっとおしい。

過去に幾度と無くマラソンの伴走をしたことがあるが、タイムを気にしなくて良いレースは実に楽しく、ついつい、「あ~気持ち良いいな~」と、走りながら思ったことを口にしてしまうことも多い。必死に走っているランナーにとっては、ツライだけ。「楽しくなんか無いよ、勘弁してくれよ」と愚痴られた事が少なからずあった。この場に及んで漸く、必死の思いで走る、つらいランナーの気持ちが分かる。何事も自分で体験して初めて分かるもの。

それにしても、横を走るハイ状態のランナー、やはり気にさわる。いつも楽しくをモットーにしていたのに、何でこんな事になってしまったのか・・・
 

 image


レースの度にある程度のムードのアップダウンはあるが、今回はいつに無く激しい。周囲のレッドロックの景観を楽しめる余裕が出てきたかと思えば、歩いたらどんなに楽かと思い描いたりの繰り返し。かなりツライ状況が続くがペース的には数十秒程度の遅れ。未だ何とかなると自分を励まし続ける。
 

気力を振り絞って走ること2マイル程度、急勾配に差し掛かりペースが上るはずだか、やはり思った様にスピードは上らない。そこに、また悪夢の再来。3時間25分のペーサーにまた抜き去られる。そのままペーサーは少し前にいた5~6名のグループにジョイン。下りに加え、改めてペーサーを得たグループは若干ながらスピードを上げた様子。何とか付いていく以外にボストン行きゲットのチャンスは残されていない。
 

マイル17(27km)、ゴールは15kmの彼方と未だ遠い。気力を振り絞るも、足は重く思ったようにペースは上がらない。ペーサーは未だ視界に捕らえている。ここで離されるわけには行かない。いつもは35kmあたりで、最後の踏ん張りで使う5 hour Energyなるドリンクを早くも投入せざるを得ない。

 image

(レース中の栄養補給に使うTailwind、カフェインジェル、そして最後の頼みの5アワー・エナジー)

ボストン出場権を得るのがそれほど容易とは思っていないが、今回は想定外の厳しいレース展開。現在位置と
BQ達成への残り時間を頭の中で反復しペースを割り出す努力をするが、思考が上手く働かない。予定通りのマイル715秒のペースで走れれば目標達成できることは分かってはいるが、エナジードリンクの効果で疲労感は軽減するもペースを上げるには至らない。
 

今回のレースのスタート地点は標高5200フィート(約1600m)過去にトレールなどで幾度と無く走ってきている標高であり、それほど苦にした事は無かったが、今回は高度が影響しているとしか思えない。

 

道路わきの家から大音量でロッキーのテーマが聞こえてくる。例のランナーズハイ男は、未だ近くにいるが、既に先ほどの元気は無い。

image
(これまでロードレースでは信頼性の高かったガーミン・フェニックス3。今回は大事な局面で隣のネバダ州まで一気に吹っ飛んだ。当然、走っている最中は、そんなことは知る術もない)

 

残すところ5マイル、4マイル、と気力ほふり絞ってカウントダウンを繰り返す。体のどこにも痛みは無い。膝も耐えている。突然、愛用のガーミンが26マイル(42km)を表示する。こうなると、もうペース配分もへったくれも無い。精一杯の力を出し尽くすだけ。アイアンマンやウルトラ・マラソンのなど、過去の辛かったレースを思い出し、未だ走れると、自分を騙す。最後のカフェイン2倍のジェルの封を切る。

 

24マイル地点で市街地に入り沿道の応援が一気に増える。残すところ2マイル(3km)。沿道からの声援は何時もありがたい。ボランティアにお礼を言いつつ最後の水を受け取る。あとは、気力を振り絞って全ての力を出し切るのみ。残り一マイル。一向にゴールは見えない。碁盤の目のような街、幾度と無く角を曲がる。ここまで来て走れなくなり、足を引き摺って歩くランナーがいる。漸く300mほど先にゴールが見えてくる。ゴール付近で微笑む妻の姿が見える。
 

 image

(市街地は思ったより長い。ゴールが見えない中で最後のスパートをかけるのは至難の業)

喘ぎなが漸くゴールに辿り着きメダルを受け取る。結果は・・・

image

タイムは、3時間27分29秒。自己新記録を僅かに更新するも、3時間25分のBQタイムには届かず。涙で視界がかすむのが分かる。おそらく悔し涙を流すのは、これが始めて。

ボストンへの挑戦、どこまで続けられるか・・・

(これまでの、報われないボストン挑戦の様子と申し込み方法はこちら)
http://nick-d.blog.jp/archives/12297386.html
 

 
image
(後半まったくペースは上っていない。13マイル以降の坂を考えれば、むしろ大幅なペースダウン)
 


ワンポイント・アドヴァイス

レース後に自分なりに良く考えてみましたが、今回の敗因は標高1600mを甘く見た事、という結論に達しました。体調万全で望み、ペースも抑え気味で走りましたが、レース序盤から心拍数がかなり高めでした。標高1600mでは酸素量は平地と比べての18%程度も少ないとの事。呼吸はそれほど苦しくなくても心拍数が上り、L/T(Lactate Threshold)を容易にオーバーし、疲労の蓄積が加速されたのではないかと思います。

また、雨模様で気温が低かったため水分補給を頻繁にしなかったのも原因のひとつと考えています。
高地でのレースは何日か前に現地入りし高地順応するのが理想ですが、それが無理でも、レース前日・当日も含め水分を通常より沢山摂ったり、前半のペース配分を更に抑えるなど、高地に適したレースプランが極めて大切なようです。今回の私のように、余り考えずにレースに臨んで後悔しないよう気をつけて下さい。

By Nick D.